婚姻費用請求の諸問題(相談例)

【相談例・妻側から】

夫婦生活に嫌気がさし、子供を連れて家出した。
別居後、既に半年になる。
別居後夫から生活費(婚姻費用)をもらっていないので、請求したい。

1 別居の際に話し合いをしていない。勝手に出て行った場合も請求できるのか。
2 別居時に遡って、過去の分も請求できるか
3 夫婦で貯めた預金をかなり持って出ている。それでも請求できるか。
4 夫は、会社勤めであるが、相続した収益マンションを持っている。
婚姻費用の算定の基礎となる夫の収入に、この家賃収入も含まれるのか

【回答例】

1 民法上、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(752条)、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」(760条)とされており、別居しても、扶養義務を免れるわけではないから、通常婚姻費用の請求が可能。

 家裁実務上、別居に至った経緯にかかわらず、婚姻費用分担請求が認められることが多いが、請求する方が「自ら不貞をして出て行った」ようなケースでは、これを否定する判例もある。

① 別居に至った理由が、専ら又は主に婚姻費用の未払いを請求する側にある場合には、分担額は、現に監護している未成年の子の養育費部分は別として、請求する側の分については、否定するもの(東京高裁昭和40年7月16日決定等)
② 有責配偶者からの婚姻費用分担請求は信義則に反し許されないとするもの(最高裁平成17年6月9日決定等)
③ 別居の原因が請求者側の不貞行為にあり、その後も請求者がこれを強行することにより別居生活が継続しているような場合は、請求者は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず,ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるとするもの(東京家裁平成20年7月31日審判)

いずれにせよ、単に「勝手に出て行った」程度では問題にならないであろう。

2 婚姻費用がいつの分から請求できるか、という点について、家裁実務(調停での扱い、審判例等)は、基本的に「請求した時から」という「請求時説」であると言われる。
従って、支払いを求める内容証明郵便を出したり、婚姻費用分担の調停を申し立てた時点が起算点となり、過去に遡って請求することは、概ね認められない(例外を認める審判例がないではない)。

3 夫婦で貯めた預金は、夫婦の共有財産であり、離婚に至れば、財産分与の対象になる。そして、離婚時に夫婦の一方がこのような預金を持ち出していたとしても、原則として「離婚時の財産分与で考慮すべき」であり、「婚姻費用分担は、それとは別に定期的収入に基づき処理」するというのが、一般的な考え方である(但し、持って出た分を生活費に充てる、という合意は、双方納得すれば可能)。

4 婚姻費用の「額」については、養育費同様、基本的には、双方の収入を基準として算定する。

裁判所で用いられる算定表については → 算定表

本件のように、夫が相続財産を賃貸していたケースについて、「婚姻費用の分担額を決定するに際し考慮すべき収入は、主として相手方の給与所得である。」として、賃料収入は考慮しないとした裁判例が存する(東京高裁昭和57年7月26日決定)。
但し、この裁判例は、元々家計が夫の給与所得の範囲内で維持され、賃料収入は「直接生計の資とはされていなかった」ケースであり、賃料収入も含めて家計が維持されているような場合は、結論が異なることもあり得る。

関連記事

  1. 養育費の増額(相談例)
  2. 有責配偶者からの離婚請求
  3. 専門家による高齢者の財産防衛
  4. 夫婦間の契約の取消(相談例)
  5. 親権の帰属の判断基準(フレンドリーペアレントルール)
  6. 婚姻費用に関する最近の裁判例(相談例)
  7. 子供の養育費
  8. 調停条項で定めた面会交流の約束を守らない場合(相談例)

最近の記事

PAGE TOP